働きたくない村人のラノベ日記

ラノベの感想ブログ。開設2014年5月30日

スピリット・アームズ オブリビオン 君と剣聖少女の未完成な現実

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《あらすじ》
ーーあなたの目の前にいる私は、誰ですか?ーー
世界で初めて痛覚を搭載したVRゲーム“スピリットアームズ”。そこに入り浸っている高校生、関場宏介の周りには『末次文音』が2人いた。1人はゲーム世界で最大ギルドのマスターであり、聖女と讃えられる少女。そしてもう1人は、入学以来クラスの誰とも話したことがない同級生。相反する2人はとても同一人物とは思えなかったが…。ゲーム内では他の追随を許さない剣士である文音と偶然パーティを組むことになった宏介は、たった2人で碧竜を倒すというクエストを通じて彼女の“秘密”を知ってしまう。その秘密はやがて、スピリットアームズの世界と彼らの現実を揺るがす事件の引き金となっていき―!?

脳の記憶障害があり担任はおろかクラスメイトの認識もままならない末次文音。彼女の唯一のよりどころであるVRゲーム“スピリットアームズ”を通じてクラスメイトの一人“関場宏介”と交流を深めていき、末次文音の障害に真正面から向き合い現実世界とVRゲームをつなげて彼女の日常を変えていく物語が感動的でした。
VRゲームという仮想空間でダンジョンに潜ってモンスター相手に剣をふるって戦うジャンルと、青春小説のような若者の苦悩や挫折、友情や恋愛を描いたジャンル。一見して親和性が低そうにも見えますが、まさかこれほどまでに魅力的な作品が出来上がるとは夢にも思いませんでした。少なくとも、今年に読んだ数々の受賞作のなかでもトップクラスに惹かれる作品でした。

末次文音の持病が日常生活に及ぼす影響の数々。連続性のある記憶はある程度保持できるため、家族に関する認識は比較的正常。一方、VRゲームの世界では毎日ログインすることで連続性のある記憶を形成することができ、他プレイヤーと交流を続けることで個人を認識することはできる。しかし、現実世界とVRゲームの記憶を共有することはほぼ不可能。ログアウトした瞬間から現実世界でゲームに関する記憶は欠落していくそうです。
そこに、現実世界の“末次文音”とVRゲームの“末次文音”の両方と交流のある主人公の“関場宏介”が行動を起こすわけです。これに関しては、VRゲームの“末次文音”から事実を打ち明けられ、現実世界の“末次文音”にアプローチを仕掛け、徐々に関係が深まるまでがドラマチックに描かれていて感動しました。キャラクターや作中の設定に関するデティールも丁寧に肉付けされており、彼女の祖父が患ったとされる『若年性アルツハイマー病』についてはハッキリと実在する疾患名を用いて描写されていたため、末次文音の境遇に関するビジョンがより強烈なインパクトでもって伝わってきました。

最終的には末次文音と関場宏介の友人たちから、『お前ら何で付き合ってないの?』くらいの関係まで進む始末で、これまでずっと無口で無表情な末次文音が関場宏介に対してだけ感情表現が豊かになったときはめちゃクソ可愛かったです。

意味がわからないかもしれませんが、VRゲームの“末次文音”と現実世界の“末次文音”で修羅場になってたときはクソ笑いました。なかなかに斬新ですね。


1巻完結にするにしても、2巻の刊行に踏み込むにしても、作者のこれからの活躍がとても楽しみです。メッチャ応援してます。