働きたくない村人のラノベ日記

ラノベの感想ブログ。開設2014年5月30日

死にたがりの聖女に幸せな終末を。

死にたがりの聖女に幸せな終末を。 (電撃文庫)

《あらすじ》
日常は少しずつ、ただ破滅へと進んでいく…。「連邦」と「帝政圏」の戦争。泥沼化した戦局を打破するため、「連邦」側はある禁忌に手を染めた。生み出されたモノの名は、『聖女』。短命という代償と引き換えに強力な異能を保有する少女型人工生命体。しかし長い闘争が両国に大きな疲弊を生み、無し崩し的な終戦が見え始めると、彼女たちの本格的な投入は見送られ―ついには『箱庭』と呼ばれた秘匿訓練施設ごと抹消、闇に葬られようとしていた。調律官―『聖女』たちの体調管理を目的とした医官―として赴任した“私”の視点から、少女たちの「最期」の日々を綴るファンタジー・ドキュメント。

戦争の兵器として生まれた少女たちが箱庭の世界で送る日常。遺伝子操作による強力な異能と人体を酷使した数々の行いにより重篤な疾患をわずらい刻一刻と死期が迫る少女たちが、自らに課せられた使命を果たすために前向きに生きる光景。そして、彼女たちの体調管理を目的として赴任し、彼女たちに明かしていない真相を知る医官の視点から描かれる物語は命の切なさと儚さを兼ね備えた素晴らしい作品だったと思います。
“箱庭”と呼ばれる隔離施設でしか暮らせず、人工的に生み出された少女たちの日々が戦争の道具として駆り出されたときに備えた戦闘訓練とささやかな休息の時に交わす雑談のみ。そんな境遇に生まれてしまった少女たちが外の世界の景色や文化に想いを馳せ、あこがれを抱く感情の残滓が世界観から強烈に伝わってきます。こんなにも無垢で健気な少女たちが残酷な運命をたどるのかと思うと悲しくなってきます。

そんななかでも、日々の体調管理を行い延命のために邁進する医官の視点から綴る物語は少女たちと過ごす日々のなかで徐々に心境に変化が現れ、“箱庭”の抹消を機に少女たちの抹殺処分が言い渡されひとつの決断を下すことになります。医官が組織の命令に背いて行動を起こしたことで自らの身を危険にさらす代償に大きな賭けに挑んだ大逃走劇は、一分一秒を争うサバイバルな展開でしたが多くのドラマと散っていった仲間たちの命を背負った物語でとても読みごたえがありました。