働きたくない村人のラノベ日記

ラノベの感想ブログ。開設2014年5月30日

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)

《あらすじ》
遠藤正樹は嘘がわかる特異体質で、川端小百合は決して嘘をつかない少女だった。そして学校のアイドル佐倉成美は、常に嘘をふりまく少女だった。ある日、川端と佐倉の共通の友人が亡くなってしまう。自殺という噂だったが川端は「彼女は殺された」と言い、佐倉も「彼女を追い詰めたのは私」とうそぶく。真相を知りたいと川端に頼まれた正樹は、その力で誰も知らない佐倉の心の内を知ってしまい―。願いと嘘と恋が交錯するトライアングルストーリー。

優しい嘘、人を幸せにする嘘、他人を貶める嘘。
嘘がわかる特異体質により家族との会話もメールでのやり取りで済ませる遠藤正樹が、決して嘘をつかない少女・川端小百合との出会いをきっかけに親しくなり徐々に体質に向き合うことになる。一見して、『嘘がわかる特異体質』は万能にも思えるが、川端と佐倉の共通の友人が亡くなった真相を暴くために自らの体質を行使していくなかで、人間の感情の複雑さは『嘘がわかる』というだけで正確に読み解くことができないことがよくわかりました。一連の騒動で渦中の人物となった佐倉においては、友人を自殺に追い込んだ真相を唯一把握している人物であり、序盤から遠藤が積極的にコンタクトをとっていたが真相にたどり着くのに時間を要したことからも伺えます。

この作品は、まだ成人に満たない少年少女たちの複雑な生い立ちと自殺した生徒の真相を描いた青春物語でもあり学園ミステリーでもある作品です。
読み始めたときのイメージは遠藤正樹と川端小百合の相性がピッタリ過ぎて、良好な関係を築きつつあったので二人の恋愛模様に軸を置くのかと思いましたが、どちらかといえば学園ミステリーに比重が置かれていて恋愛要素は薄味でした。むしろ、嘘をふりまく学校のアイドル・佐倉成美との距離が縮まるにつれて彼女の思いのたけが打ち明けられ感傷的な気分にさせられました。佐倉成美も含め、丁寧にキャラクターの心理描写がされているため、より一層、嘘と想いが交錯する物語に深みが生まれて素晴らしい作品だと思いました。

著者である三田千恵さんはデビュー作の『リンドウにさよならを』をはじめとても素晴らしい作品を生み出していましたが、今回も大変に読み応えがあり充実した読書を楽しむことができました。これから先新作が出たときは迷わず作家買いをしていきたいと思います。

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)