《あらすじ》
聖王家が治める唯一の陸地・リエスを除くほとんどが水没してしまった世界。リエスを追われた人々は『船団国家』を形成し、大海原での生活を続けていた。ある日の不法船集会で、『不沈』の異名を持つ船乗り・カーシュが出会ったのは、リエスで起きた政変を命からがら逃げのびた聖王家の末姫・サリューだった。場違いな様子のサリューを気にかけたカーシュは、彼女からある取引を持ちかけられることになる。「わたしを、この海図が示す場所に連れていって」。―自由を求め、海を漂い、最果てに想いを馳せる海洋戦記ファンタジー出航!
『漂海のレクキール』が放つ大海原と唯一の陸地をめぐる壮大な世界、海に生きる船乗りたちの生活様式などの細部にわたるまで丁寧に色濃く描写されていて、『漂海のレクキール』がもつ独特の世界観が楽しめる逸品。
『海上』でかつ『船上』に生活圏をおく機会が多いため、不規則かつ不安定で天候に大きな影響を受ける日々。そんな予測不可能なトラブルに襲われる光景と死にもの狂いでトラブルへの対処に追われている光景が合わさって、より『海』のもつ大自然の脅威にこらえながら生きる人々の奥深さがあった。
そして、サリューがもたらした1枚の海図がきっかけとなり、カーシュたちとの大冒険の始まり。そこから先は、徹底的に作品の放つ雰囲気を壊すことなくカーシュたちの他愛のない日常のやり取りと徐々にサリューと親睦を深め、やがてひとつの困難な壁を前に選択を迫られる場面までオーソドックスに描かれていました。クオリティも読み終わった後の満足度も申し分なく、柴乃櫂人さんが描く綺麗な海の風景をバックにしたキャラクターのデザインと、荒波にもまれる船上でのワンカットを繊細に描かれていて、それもあってより『海』の物語を味わうことができた。
控えめに言ってもなかなかに味わい深い作品ですので、興味のある人はぜひ読んでみてください。